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美しさよりも
おいしさを
追い求めたい
アルカナ東京
KITTE 6Fコピーではなく、ここでしかできないフランス料理を
フランス料理というと、芸術作品のような見た目をイメージする人は多いだろう。だが、フレンチレストラン「アルカナ東京」の飯野昭人料理長が最も大切にしていることは、「“食事”のカテゴリーから外れないこと」だと言う。
「近年のフランス料理では、珍しい食材や実験的な料理が注目を浴びますが、それらはおいしさと結びつかないこともあります。でも、フランス料理だって“食事”なんです。見た目や奇抜さよりも、“食べておいしい”ことから絶対にブレないようにしています」
確かに、フランス料理は特別感が強いからか、“パフォーマンス”の部分に目が行きがちかもしれない。そこには、フランス各地で修行を積んだ飯野シェフならではの視点が感じられる。
「日本は食事においしさを求めるけれど、ヨーロッパは時間をかけて食卓を楽しむ。食文化が違うんですよね。フランス料理も、土地の料理なんです。世界各地でその土地特有の発展をしてきた。だから、日本ならではのフランス料理があると思うんです。
そういう私も日本に帰ってきたばかりの頃は、フランスの食材を使い、現地で作っていたような料理を提供していました。でも、それだとコピーにしかならないんです。『アルカナ東京』に来て生産者や生産の現場を訪ねる機会が増えたことで、そこから新たな発想が生まれることに気づきました。頭の中で考えているだけではできないことでしたね」
三浦半島から朝採れの野菜を仕入れ、旬の素材を活かした料理の数々。シェフが体で感じ、触れたリアルな感覚がそれらを生む。
「自分自身が季節を感じないとメニューを考えられないんですよね。そろそろコレが食べたいなとか、アレが出始めたなというのが感じられないと作れなくて。いつもメニューが決まるのがギリギリのタイミングなので、オーナーには文句を言われています(笑)」
半歩先の季節を感じて作られるメニューは、きっと体が本能的に求めるおいしさなのだろう。そこにあるのは格式ばったフレンチの緊張感ではなく、“おいしさ”に溢れた等身大の特別感。だからこそ、大切な人を誘いたくなる。
アルカナ東京arcana tokyo
6F SHOP PAGESIDE STORY
“おいしいもの”を通して、人と人がつながる。
そして、輪が広がっていく拠点となるレストラン
「『アルカナ東京』に入った当時は、副料理長として2年くらい現場を経験して、35歳までに独立したいと思っていたんですけど…なぜか、まだここに(笑)」。そう笑う飯野昭人シェフをつなぎとめているのは、人との“つながり”かもしれない。ある日、来店したお客さんが食事の後に「自分たちは伊豆で畜産業や農産業を営んでいる」と声をかけてきた。そこから縁ができ、飯野シェフが伊豆の食材を探す旅に出たり、彼らが「アルカナ東京」のイベントに出演したりと、伊豆の生産者たちとの輪はどんどん広がったと言う。お客さんも同じ。お店に連れてきてもらった人が、次は自分の大切な人を誘って来る。つながりの連鎖が生まれる場所なのだ。
※料理写真はイメージです。