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本当に豊かな暮らしとは?
小さな町の問いに耳を傾けて
石見銀山 群言堂
KITTE 2F蛇行した川に沿って細い道が緩やかなカーブを描き、古い家屋がぎっしりと建ち並ぶ。世界遺産・石見銀山のふもと、大森町にはどこか懐かしい日本の原風景が残されている。
「かつては世界の銀産出量の3分の1を石見銀山が占めていたといわれるほどで、町も栄えていたそうです。その鉱山遺跡と自然との共生、そして文化的景観を含め、世界遺産に登録されました。近代化に乗り遅れ、経済発展しなかったから古い町並みが残ったわけで、皮肉にもそのおかげで登録されたんです。でもそれはマイナスなのではなく、発展だけが人類の幸せなのかと問われているようにも思えます」
そう話すのは、大森町で生まれたライフスタイルブランド「石見銀山 群言堂(以下、群言堂)」の創業者、松場登美さんだ。全国30店舗以上を展開する「群言堂」の本店が、人口わずか400人ほどの町にあるというのは少々意外だった。
「よく島根県は何もないって言われるんですけど、何もないからこそ生まれたものもあると思う」と、「群言堂」の経営を引き継いだ峰山由紀子さんが話してくれた。
「例えば、ミュージシャンが来ないから自分たちでお寺を使ってコンサートを開いたり、理想の結婚式を自分たちで作ったり、身近にあるもので幸せを作り出す技術がすごく磨かれているのかなと思います」
松場さんの娘でもある峰山さんは、幼い頃から大森町でそうした暮らしを送ってきた。そして今、その島根県にこだわったものづくりに、再び挑戦しようとしている。
「『群言堂』は色々なご縁で全国の作家さんたちと出会い、雑貨など幅広く扱ってきました。でも初心に戻り、何もないと言われる島根県で、私たちがこれだけ幸せに暮らしていることを表現したいと考えたんです。そして、県内でものづくりをされている方々と一緒に商品を開発していくことにしました」
松場さんは、ここまで続けてきて思うことがあると言う。
「私は服のデザインをしたかったわけじゃなく、暮らし方、極端に言うと生き方をデザインしたかったんだなって。『群言堂』の服を着ると、こういう生き方がしたくなるという提案をしてきたように思います。便利になって豊かな暮らしを手に入れたように感じるけど、未来に希望が持てるかどうかは疑問が残る。不便だけど豊かさを感じられた時代を、今のうちに取り戻しておきたいと思うんです。そういう気持ちになれたのは、大森町という土地の力もあると思います」
「群言堂」のコンセプトである「復古創新」。古くからあるものを活かし、新しい形を加えて、次の世代へ。それを体現している町だからこそ、生まれるアイテムがあるのだ。
アイテムが醸す優しい雰囲気は
大森町に流れる空気そのもの
石見銀山 群言堂Iwami-Ginzan Gungendo
2F SHOP PAGESIDE STORY
江戸時代からダイバーシティだった!?
若者を惹きつける大森町と「群言堂」
大森町を歩いていたら、学校帰りの小学生たちに「こんにちはー!」と大きな声で挨拶された。町の雰囲気も相まって、時代を錯覚してしまいそうになる。「都会では知らない大人と話しちゃいけないっていう時代でしょ」といたずらっぽく笑う松場さん。「この町では、大人たちが率先して遊び、子どもたちも混じってキャッキャと楽しんでいます。そういう大人の姿を子どもが見て身近に感じているから、大人にも物怖じしないのかもしれません」と峰山さんも話す。大人も子どもものびのびと過ごせる。それが、大森町に若い移住者が増えている理由の一つなのだろう。「群言堂」が徐々に成長し雇用を生んだことも、ショップ以外に古民家を再生した宿を運営し、暮らしの魅力を伝えていることも影響している。だが、それだけではない、意外な町の歴史があった。「江戸時代、銀山で栄え天領となった大森町には、鉱夫はもちろん、役人や商人が全国から集まったんです。しかも、身分で住む場所が分けられるのが当たり前の時代に、武家屋敷も商家も町家も隣り合って混在していました。何百年も前から多様性のある町だったんです(笑)。外から来る人を誰でも受け入れる気質みたいなものが根底に流れているんだと思います」と峰山さん。古くからの町並みを残す大森町に、今の時代の考えがすでに根付いていた。