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鯖江のものづくりを
継承するために

福井県 鯖江市

金子眼鏡店

KITTE 3F

眼鏡の世界三大産地のひとつであり、日本製眼鏡の96%のシェアを占める鯖江。その鯖江ブランドのひとつである「金子眼鏡」は、1958年に創業した。細かいパーツや工程ごとに専門業者が存在する分業制が一般的な眼鏡業界において、企画からデザイン、製造、販売に至るまで一貫生産・販売しているのが特徴だ。

「分業ではどうしても妥協せざるを得ないところが出てきます。内製化することで自分たちの納得がいくものを作れる。その分、手間や時間はかかるけれど、それが『金子眼鏡』の強みだと思っています」と、取締役の大橋法明さんは話す。

一ブランドだった「金子眼鏡」が、製造まで手がけるようになったのは2006年のこと。背景には、眼鏡のファストファッション化があった。

「安い海外製眼鏡の台頭により、今は眼鏡が5千円や1万円で買える時代。後継者不足や海外の大企業によるライセンスブランドの寡占化といった問題も重なり、鯖江が産地として衰退していくのではという危機感を覚え始めたんです。かつて大量生産するために効率化を図って分業制にしたものが、ビジネスとして成立しなくなるかもしれない。それなら自分たちが鯖江のものづくりの継承者になろうという想いで、製造部門を立ち上げました」

当時から製造に携わっている工場長の粟田征樹さんは、「廃業した眼鏡工場の跡地を借りて、5人くらいでスモールスタートしました。試行錯誤しながら手探りでやってきたという感じです」と振り返る。

それが今では3つの工場を持つまでに成長。眼鏡ブランドのトップランナーという地位を確立している。

「鯖江の眼鏡づくりを継承することを大きなミッションのひとつにしているので、伝統的な素材や製法を大切にしつつも、ITやロボットなどを活用した新しい技術も導入しています。だから『金子眼鏡』の店舗だけで眼鏡の歴史を感じていただける。これは他の眼鏡店にはない面白さだと思っています」(粟田さん)

「今は鯖江のブランドだから購入してくれている人にも、いずれは『金子眼鏡』だから欲しいと思われるようになりたいですね」(大橋さん)

1.企画やデザインから手がける「金子眼鏡」。「ブランド創生期からオリジナリティを追求したデザインにこだわってきました。長い歴史で培ってきたものが、アイテムに現れているのかなと思います」(大橋さん)。
2.つるに丁番を取り付ける下穴を開ける作業。ほぼすべての工程に人の手が入っている。
3.社名を冠した「金子眼鏡」シリーズには、セルロイドを使用した「KCシリーズ」と、チタンなどの金属フレーム、金属とプラスチックのコンビフレー厶が揃う「KVシリーズ」がある。

金子眼鏡店KANEKO OPTICAL

3F SHOP PAGE

SIDE STORY

県外からも若い職人志願者が訪れ、
持続可能な眼鏡づくりへ前進し続ける

「金子眼鏡」の代表的なシリーズのひとつ、「KCシリーズ」をはじめとするプラスチックフレームは、鯖江にある自社工場「BACKSTAGE」で生産されている。デザインから素材の切削・加工・研磨・組み立て・調整に至るまでをひとつ屋根の下で行うことで、各工程の担当が共通の想いを持ち、妥協のないものづくりを実現できていると工場長の粟田さんは話す。「自分が作っているものが何になるのか、完成形がわかるというのは、やりがいに繋がっていると思います。眼鏡づくりにおけるひと通りの技術を習得できるというのも、一貫生産のメリットのひとつ。技術的な課題や仕上がりの細かな違いなども共有できるので、技術力や品質を高めることができます」。眼鏡工場とは想像しにくいスタイリッシュな建物という環境も相まって、「金子眼鏡」には若い職人志望者が多くやってくるという。持続可能な眼鏡づくりへの道は明るいようだ。

素材となるプラスチックやフレームの色見本。現在、一般的にプラスチックフレームの主流であるアセテートは、カラーバリエーションが豊富。
フレームの部品になるプラスチック板。ここからパーツごとに切り出す。現在では高性能ロボットを使用することが多いが、「BACKSTAGE」では手動で切削する古い機械を残し、研修などで技術を継承している。
セルロイドフレームで重要な工程となるバレル研磨を行う部屋。しっかり時間をかけ、撹拌機で「粗ガラ」「中間ガラ」「仕上げガラ」の3段階で磨きを繰り返す。鯖江にはこの作業だけを行う専門業者もあるそう。
ナイロン製のチップと研磨剤を入れて撹拌機にかけた後のフロントフレーム。フレームの角が取れ、自然な丸みを帯びる。
セルロイドはアセテートに比べ堅いため、金属芯を打ち込まない「ノー芯製法」が可能だが、扱いが難しいという。一つひとつ手作業で磨く際の力加減が、職人の腕の見せどころ。
フレームにレンズを取り付け、店頭で装用できるよう図面に合わせて手作業で調整する。