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革新が100年後の
伝統を生む
能作
KITTE 4F江戸時代から400年以上続く鋳物の町として、鋳物生産量の国内トップシェアを誇る富山県高岡市。この地で1916年に創業したのが、鋳物メーカー「能作」だ。日本各地に直営店を持ち、本社の工場見学は年間13万人が訪れるほどの人気ぶり。近年は「能作」でぐい呑みを作り、富山の酒蔵を巡るツアーの開催など、産業観光にも力を入れている。その仕掛け人で、代表取締役社長の能作千春さんに人気の理由を聞いた。
「『能作』では1990年頃から工場見学を行い、大切にしてきました。きっかけは、工場を見学したいと親子でやって来た、あるお母さんの言葉。『ちゃんと勉強しないと、こんな仕事をする大人になるからね』と、小学生のお子さんに言ったそうです。それを聞いて非常にショックを受けた私の父(現・代表取締役会長の能作克治さん)が、地場産業の魅力を伝え、職人の地位を高めるために工場見学を始めました。今では、幼い頃の工場見学がきっかけで入社してくれる人もいて、かつて7名だった職人は現在数十名に。若い職人も増えています」
後継者不足に悩む地場産業が多いなか、興味深い傾向だ。順調に発展し続ける「能作」だが、一時は苦境に立たされていたという。鋳物製造の主流だった伝統的な花器や茶道具、仏具の需要が、ライフスタイルの変化など時代の移ろいと共に減少していったのだ。窮地を救ったのが、現在主力の錫100%製品だった。
「父が錫製品を開発し始めたのが約20年前。当時、錫100%の鋳物製造を行っているところはありませんでした。職人たちも最初は反発したそうです。というのも、錫はやわらかすぎて扱いづらいんですね。かといって厚みを持たせると重くなり、価格も上がる。日常で使うテーブルウェアには向きません。しかし、職人として18年のキャリアを積んでいた父は、試行錯誤して錫100%の器を開発し、職人たちの前で作ってみせた。そうしたら職人たちも納得するしかなかったようです」
伝統の技術で革新を生む。その革新が100年後の伝統に繋がる。その想いでものづくりを続ける「能作」から、今後も目が離せない。
能作NOUSAKU
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ものづくりの町、高岡と、人々をつなぐ場所
「能作」から新しい風が吹く
「高岡銅器は本来、着色や彫金といった加飾技術の高さが特徴。でも『能作』は、鋳物を作る生地屋として素材の美しさを見てほしいんです」と能作千春さん。シンプルながら洗練されたフォルムや、ユニークなデザインのアイテムが揃うのはそのためだ。しかし、それらは「能作」だけでは完結しない。「高岡銅器は分業制です。型屋、生地屋があり、成形後は研磨、彫金、着色と各工程の専門業者があります。その分業制が、高岡のようにひとつの町で成立するのは全国でも珍しいそうです。ものづくりの町としての文化があり、高岡市の小中学校では『ものづくり・デザイン科』という授業もあるんですよ」。その町に、「能作」の工場見学で外から大勢の人々が訪れる。混じり合った時の化学反応が楽しみだ。