HUMAN
STORIES
なくてもいい
帽子、あると
うれしい気持ち
代表取締役社長 栗原亮
OVERRIDE
KITTE 3F常識にとらわれない発想で
時代の変化に対応
「帽子ってなくても生きていけるもの。でも、あるとより豊かな気持ちになれるんです」と、「OVERRIDE」を運営する株式会社栗原の栗原亮社長は話す。
「ただ、調査によると、日本の人口の半分くらいしか帽子を使っていないんです。残り半分の人にも帽子を楽しんでもらうのが、僕の目標。そのために、ヘアケアの専門家とナイトキャップを開発したり、サウナハットやパンツなどのサウナシリーズを展開したり、病気などでヘアロスに悩む女性のための帽子を提案したり……。普段は帽子をかぶらない人にも興味を持ってもらえるよう、さまざまなアプローチを試みています」
それらはどれも一般的な帽子店では見かけないものだ。アイデアや遊び心にあふれたアイテムを前に、「人々の常識を覆すことは、我々がやらないと誰もやってくれないので」と栗原さんは笑うが、株式会社栗原は今年、創業100年を迎えた老舗。その使命感のようなものが、栗原さんを突き動かすのだろうか?
「みんな大して帽子を求めてない、ということが先々代からの課題なんです。祖父が帽子問屋を始めたのは大正11年。その頃は着物にカンカン帽やスーツに中折れ帽というスタイルが一般的で、よく売れたそうです。でも、昭和30年代後半以降、叔父が二代目、父が三代目を継ぐ頃にはみんな帽子をかぶらなくなって。僕も学校などで父親が帽子店をやっているというと、『売れるの?』って言われ続けてましたね(笑)」
だが、1999年に自社ブランド「OVERRIDE」を立ち上げ、カジュアル路線に舵を切ると、店舗はどんどん拡大していった。
「100年続けてこられて、次の100年を迎えるには、やはり環境問題は外せない。コロナ禍で材料調達が滞るなど、外的要因でサプライチェーンはすぐ崩れるんだと痛感しました。豊かな地球環境があってこそ、我々も帽子を提供できるんだと。だから次のテーマは『帽子と地球、社会との共生』。微力ではありますが、素材開発や長く使っていただける工夫を考えていきたいと思います」
次はどんな帽子で驚かせてくれるのか、今から楽しみだ。
OVERRIDEオーバーライド
3F SHOP PAGESIDE STORY
身分も性別も関係なく、誰もが自由に
帽子を楽しめるのは、社会がフラットになった証
「OVERRIDE」(株式会社栗原)の転機は、栗原亮さんが大学生のとき。「アメカジブームでベースボールキャップが流行って。当時、別の店で買ったキャップをかぶっていたら、父に『なんでうちの帽子をかぶらないんだ』と言われ、『かぶりたいものがないから』と答えました。そしたら父はそのキャップの商標権を取り、それがよく売れたんです」。時代の変化に対応したことが、現在につながっているのだ。かつては上流階級のシルクハットや労働者のキャスケット、大学生の学帽など、身分や肩書きを示すものだった帽子が、「今は日々を楽しむ道具に変わった」と栗原さんは言う。帽子を楽しむことは、フラットになった社会を謳歌することでもあるのかもしれない。