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頑固なまでに
上質な伊勢肉を
守り続ける
名産伊勢肉 豚捨
KITTE 5F松阪牛のルーツ「伊勢肉」を
ブランド化しないこだわり
「豚捨(ぶたすて)」。なんともインパクトのある店名である。豚を飼っていた創業者の森捨吉氏が精肉店を始めたのが由来だそうだが、ここの牛肉がおいしすぎてお客さんが豚肉を捨てたという逸話も残っているほど、「豚捨」の牛肉は評判が高い。現在、その味を守っているのが、捨吉氏のひ孫にあたる森大亮さん。1909(明治42)年の創業以来変わらず、松阪牛のルーツとされる上質な伊勢肉を提供し続けている。
「松阪牛というブランド牛ができたのは、1935(昭和10)年に東京で行われた牛の品評会で優勝して以降。それまでこの辺りの牛はすべて伊勢牛と呼ばれていて、先の品評会で受賞した牛も伊勢から連れて行った牛でした。今や松阪牛は日本三大和牛のひとつといわれて人気ですが、うちは松阪牛の登録をしてこなかったんです。ブランド牛にとらわれず、『豚捨』というブランドでやっていく。“『豚捨』のお肉だったら間違いない”と買ってもらえるものを目指そうと決めたんです」
その「豚捨」の転機となったのが1993(平成5)年、伊勢神宮内宮前のおかげ横丁開業だ。
「それまで本店の精肉店と併設されたすき焼旅館『若柳』だけの事業でしたから、おかげ横丁への出店の話をもらっても迷っていました。けれど、伊勢の肉屋として三重県内の他のお店にそこを譲るわけにはいかないと、思い切って外食産業に参入したんです」
やがておかげ横丁店は、名物のコロッケに行列ができ、正月には牛丼が一日600~700食も出るほどの人気店に。「今の味になるまでに何度もタレを作り変えるなど試行錯誤した」という牛丼は、ふたを開けると真っ黒な見た目にまず驚く。かといって味付けが濃いわけではなく、むしろ甘辛いタレに負けない牛肉の甘みと旨みが濃厚。KITTE店の「すき焼き」も、一般的なイメージとだいぶ違う。割下を使わず、砂糖と伊勢の濃口醤油のみで“焼く”のが豚捨流だ。大判の伊勢肉は、とろけるような脂の甘みと濃い旨みがダイレクトに味わえる。
「KITTE店では伊勢の味が東京で味わえると、知人を連れてきてくれるお客様が多いです」と森さん。一度食べたら誰かに話したくなる、そんな肉なのだ。
名産伊勢肉 豚捨meisan iseniku butasute
5F SHOP PAGESIDE STORY
伊勢は20年に一度、コトが起こる。
次の式年遷宮の年、2033年にも期待!?
「おかげ横丁 豚捨」は1993年、「豚捨 KITTE店」は2013年にオープン、どちらも伊勢神宮の式年遷宮の年だ。「ご縁があってKITTEにお誘いいただいたものの、式年遷宮の年に開店は無理だと思い、半年ほど断り続けていたんです。はっきり断ろうと東京駅丸の内口に十数年ぶりに降り立った時、様変わりした街並みを見てここでやってみたいと思ってしまい…。お世話になりますとお返事していました(笑)」と「豚捨」の森大亮さんは話す。「伊勢では20年に一度の式年遷宮に合わせ、町が整備されたり、新事業が始まったりします。『常若(とこわか)』の精神があるんです」。古いものを作り直し、常に若々しく永遠を保つというもの。次の式年遷宮の年が楽しみだ。