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手ぬぐいは万能 三浦しをん

「夏と冬、どっちが好き?」と話題にのぼることがたまにあるが、強いて選ぶなら夏である。最近の夏はいくらなんでも危険な暑さだと思うけれど、五分ぐらいなら耐えられる(短い)。しかし、寒さはダメだ。私はちょっとでも寒いと感じると、瞬時にもこもこに着ぶくれる。秋のはじめごろから冬用のコートを着てしまい、汗をだらだら垂らしていることもあるほどだ。「寒さ」への警戒心と恐怖心が尋常じゃない。子どものころに映画『八甲田山』を見たからかもしれない。

とはいえ私も経験を重ね、「秋に過剰な防寒をするのはやめたほうがいい」と学んだ。世の中には冬用コートのほかに、カーディガンやストールといったものもあるのだ。便利に活用しつつ、もうひとつ鞄のなかに常備しているのが「手ぬぐい」だ。

手ぬぐいはハンカチ代わりになるのはもちろんのこと、「ちょっと寒いかな」というときに肩に掛けたり、首に巻いたり、ほっかむりしたりするのにも最適なのである。しかもかさばらないし、すぐに乾くので洗濯が楽だ。さらに、いろんな色と柄の品がある。比較的安価で、お土産屋さんにご当地手ぬぐいがあったり、美術展などのイベントのグッズに採用されていたりするので、買い求めると行楽のいい記念になる。

こうして集めたもののなかから、私はその日の服装や季節に合った色と柄の手ぬぐいを選び、鞄に入れておく。秋ならば、秋の野花柄とか、マヌケでかわいい鹿の顔が一面に水玉のように染め抜かれた柄がお気に入りだ。そして少しでも寒いと感じたら、即座に取りだしてマフラーのように首に巻く。

「それはちょっとひとの目が気になる……」というかたもいらっしゃるだろう。なによりも重要なのは防寒対策だと胸に刻んでいただきたいし(『八甲田山』!)、手ぬぐいは充分にオシャレだと主張したいが、まあ首に巻くかどうかはべつとして、いざというときにいろんな用途で役に立つので、手ぬぐいを一枚持ち歩くのはおすすめだ。

三浦しをん

2000年、小説『格闘する者に○(まる)』でデビュー。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。『風が強く吹いている』『のっけから失礼します』など著書多数。最新小説は『エレジーは流れない』。