HUMAN
STORIES
サステナブルを
身に纏う
新しい価値
チーフディレクター 北之坊敏之
nest Robe / CONFECT
KITTE 3F服も産地も職人も
持続可能であるように
「これ、引っ張ってみてください」と、手渡された生地を左右に引っ張ると、しなやかに伸びた。
「普通、リネンの生地は伸びない。うちのは糸にストレスをかけない方法で作るから伸びるんです」
「ネストローブ」を創設した北之坊敏之さんは気持ちの良い笑顔で話す。だが、それを作るには各工程の手間暇も、技術も桁違いだ。 「織機や編み機は低速の旧式を使い、手染めして天日干しをします。それでできあがった生地を縫うのも、また難しいんです」
そう言って見せてくれた袖の型紙には、0·2、0·4という数字が細かく刻まれていた。
「『ここは0·2mm縮めて縫う』という指示。それをミシンの手加減だけで行うので、普通に縫ったら5分のところが、25分くらいかかる。でも、その手間で人の体に添う形になり、着心地とシルエットが格段に良くなります。すべてにおいて重視しているのは効率よりも着心地。だから最後にお客さんが着ることで、うちの服は完成する。着るたびに体に馴染んで、着心地が良くなっていくんです」
職人が時間をかけて丁寧に作った服を、着る人が長い年月をかけて育てていく。移り変わりの早いアパレル業界で、かつては異端とも言える存在だっただろう。
「アパレルは持続可能じゃなかったと思います。自らトレンドを作ってそれを煽って買わせて、また次のトレンドを作って……。流行に流されて消えたところもたくさんある。うちは日本の産地や技術を守っていきたいんです」
その想いは、裁断くずから新たな洋服を再生する「アップサイクルリノ」にも通じるものがある。
「ここまで仕上げるには元々の原料の質の良さと、高い技術力が必要です。手間もコストもかかります。だからと言って、通常より3割高い価格にしたらサイクルが回らないので、その分は各工場みんなで負担しよう、代わりに仕事を継続させるからと、納得してもらいました。難しいリクエストにも付き合ってくれるのは、みんな本当はそれがしたいからですよ(笑)。そのための知識も技術もあるので。うちはそれに対して正当な対価を払っているだけ。フェアトレードをしているだけです」
nest Robe / nest Robe CONFECTネストローブ / ネストローブ コンフェクト
3F SHOP PAGESIDE STORY
価格競争になっていた時代にアンチテーゼを。
上質を作り続けていれば、価値は認められる
縫製工場を営んでいた「ネキスト」が自社ブランド「ネストローブ」を立ち上げたのは2005年。ファストファッションが台頭してきた頃だ。「アパレルに価格破壊が起こった」と創設者の北之坊敏之さんは話す。「中国産に対抗するために、どのメーカーも価格を下げないと売れないからコストを下げてくれと言うようになって。それまでの経験から、上質なものは長く売れること、自分たちにはそれを作る技術があることはわかっていました。だから、時代には逆行していたけれど、行くも地獄戻るも地獄ならと決断したんです」。その当時から天然繊維だけを使い、質にこだわったものづくりをブレずに続けてきた。そしてようやく、時代が彼らに追いつこうとしている。