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HUMAN
STORIES

伝統が育んだ
注染の手ぬぐいで
世界をつなぐ

JIKAN SYTLE 宮本株式会社 代表取締役 宮本善隆

JIKAN STYLE

KITTE 4F

職人の技術や想い、目に見えないものを広めたい

手ぬぐい……読んで字の如く、「手をぬぐう」もの。「昔は手を拭いたり、体を洗ったりするものだったんですよね」と、「JIKAN STYLE」の社長・宮本善隆さんは話す。

「現代では、その役割はタオルに取って代わられました。でも、次第に日本のものづくりが見直され、時代のニーズが変わった。手ぬぐいはファッションやインテリアの一部として扱われ、実用品から嗜好品へと変化していったんです」

宮本さんが自社ブランド「kenema」を立ち上げたのもその頃、2005年のことだった。

「日本の伝統は、単に昔からの技術を守ってきたのではなく、時代に柔軟だったから残り続けているんだと思います。そういう時代背景や四季など、時の移ろいを感じるものを届けたくて、その後『時感』というブランドも作りました。職人さんの技術や想いなど、目に見えないものを形にして広めたい、次の世代に受け継いでいきたい。そのため、発信の場として公式ショップ『JIKAN STYLE』も立ち上げたんです」

店舗にはカラフルなデザインが目を引く、アートのような手ぬぐいが並ぶ。それを生み出すのが、伝統的な「注染」という技法だ。

「注染は生地の上から染料を注いで染めるので、繊細なぼかしやにじみが生まれます。また、一度に複数の色を染められるため、色と色が混じり合うグラデーションが表現できるんです。機械で刷る場合と違って、輪郭がパキッと出ないのも特徴ですね」

独特のじんわりとしたタッチや質感は、優しくやわらかい印象を与える。実際、生地に染料を浸透させて染めるため、表面にインクをコーティングするプリントと違い、布もとてもやわらかい。さらに、使うほど手に馴染んでいく。注染とはオリジナリティを生み出す、日本が誇る技術なのだ。

「注染だけではありません。手ぬぐいができるまでには、紡績、織布、和晒、注染、整理という工程を辿りますが、すべて専門の工場で分業しています。どれかひとつでも欠ければ成り立たないんです。それを守るのも、私たちの役割。そしていつか、手ぬぐいで世界をつなぎたいですね」

1. 注染の「板場(型置き)」という工程。生地をぴったり重ねて折り畳み、型紙を合わせて染料を通さない防染糊(ぼうせんのり)をヘラで均一に伸ばす。
2. 「土手」と呼ばれる防染糊の囲いから流れ出さないように、専用のジョウロ 「薬缶」 で染料を注ぎ込む「そそぎ染め」。
3. 生地を染める注染は、表と裏がきれいに同じ柄に染まる。
4. 縁起物のだるまが描かれた「七転八起」 は、「kenema」立ち上げの時から人気のデザイン。

JIKAN STYLEジカンスタイル

4F SHOP PAGE

SIDE STORY

大阪府堺市で発展した「注染」を
守り継ぐことで新たな文化へ

美しいグラデーションやぼかしが特徴の注染。その絶妙な色のニュアンスはどのように作り出されるのか。東京では数少ない注染工場「伊勢保染工所」を案内してもらった。中へ入ると、少し酸っぱいような独特の匂いが漂う。「JIKAN STYLE」の宮本さんにとっては懐かしいものだそう。「曽祖父が堺で注染工場をやっていたんです。僕はその堺で生まれ育ちました。周りには注染や和晒しの工場がたくさんあって、染料や糊の匂いが日常だった。その風景が記憶に染み付いていて、余計に守りたいと思うのかもしれません」。堺市で発展し全国へ普及した注染。生まれた町の伝統や文化を守り継いでいきたい。その想いがまた新しい文化を生むのだろう。

1. 防染糊をのせては生地の折り返しを繰り返す。その後の染めに影響する重要な工程。
2. 「土手」と呼ばれる防染糊の囲いはフリーハンドで。
3. 染料を注ぐ「薬缶」は工場によって形が微妙に違う。
4. 薬缶で染料を注ぎ、足元で吸引装置のペダルを踏んで上から下まで浸透させる。色の出方の調整は、職人の手と足の感覚だけ。
5. 見事な手さばきの「水元(水洗い)」。糊や余分な染料を洗い流す。
6. 高さ10mほどに組まれた足場の上で梁にかけて乾かす。「伊勢保染工所」ではこの足場に登ることが新人の登竜門。
7. 屋内でも「立干し(乾燥)」ができるのは同工場の特長。
8. 「JIKAN STYLE」では手ぬぐいのほか、風呂敷などさまざまなアイテムを扱う。
9. 注染で染めたリバーシブルのハンカチ。うっすらと柄が透けて重なる。