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紀伊水道の
海の幸が
四季を届ける

和歌山県和歌山市

魚匠 銀平

KITTE 6F

新鮮な朝穫れの魚だから
引き出せる、素材本来の味

魚が好きだから――。和歌山市に本店を構える「魚匠 銀平」は、そのシンプルな想いから創業した。魚本来の味を楽しんでもらいたいと、鯛めしは塩と昆布だけで味付け、魚の煮付けは水と醤油のみで薄味に仕上げる。だが、香り豊かで旨みたっぷり。だしの効いた奥深い味わいは、とてもシンプルな調味料だけとは思えない。それは、「魚の鮮度がいいからできること」と「銀平 丸の内店」の安田俊宏店長は言う。

「濃い味付けのほうが臭みを取りやすいのですが、魚の香りや味わいも薄れてしまうんです」

だから、丸の内店も含め、「銀平」は朝穫れの魚にこだわる。それを支えるのが、紀伊水道に面した和歌山県有田市の辰ヶ浜漁港と逢井漁港だ。黒潮の支流と大阪湾や瀬戸内海からの内海系水が交わって豊かな漁場が形成され、なかでも太刀魚は日本屈指の漁獲量を誇るという。そのひとつ、逢井漁港を訪ねた。

朝7時前。小さな漁港では、漁から戻った漁師たちが、水揚げした魚を慣れた手付きで仕分けしていた。約1時間後、突然、漁港に続く一本道から軽トラックが列をなして出現。仲買人たちが到着し、すぐさま競りが開始される。ただし、メディアでよく見る大声が飛び交う光景ではなく、チョークで値を書いた木札が静かにやり取りされるだけ。淡々と魚が競り落とされ、あっという間になくなると、仲買人たちもまた一斉に消えていった。このスピード感も新鮮さを保つ一因なのだ。

昔ながらの競りが続けられる逢井漁港では、漁法も伝統的な定置網を用いている。二艘の船で挟む形で網に入った魚たちを誘い込み、最後はタモ網やかぎ針のようなもので釣り上げる。そのため、大きな網で一気に獲る漁法と違い、魚の傷みが少ないそう。

さまざまな種類の魚が獲れるのも魅力のひとつだと安田さん。「春はサクラダイ、夏はハモ、秋はサンマ、冬はフグやクエも獲れます。鶏や牛も色々な種類がありますが、魚は季節でそれが変わる。食べることで四季の移ろいを感じられるんです。魚を食べるなら、季節を味わうなら『銀平』と思ってもらえたら嬉しいですね」

1.「 銀平」のメニューはその日獲れた魚によって変わり、魚に合わせた調理法で提供される。
2. 丸々と太ったブリが、カゴに入れられズラリと並ぶ。この日はほかに、太刀魚やサワラも水揚げされていた。
3.「銀平丸の内店」の店内は落ち着いた雰囲気。少人数から利用できる個室もある。
4. 名物の「鯛めし」は、土鍋の蓋を開けた瞬間、風味豊かな香りが広がる。どっしりとした土鍋は、著名な陶芸家・中川睦氏の作。

魚匠 銀平 丸の内店UOSHOU GINPEI MARUNOUCHITEN

6F SHOP PAGE

SIDE STORY

季節を知らせる魚たちが、
海の変化も教えてくれる
小さな漁港の愛おしい朝のひととき

「銀平」の仕入れ先のひとつ、逢井漁港へ行くには、車1台がギリギリのトンネルを通るしかない。対向車が来ないかドキドキしながらトンネルを抜けると、川端康成ではないが、まるで別世界が広がっていた。空には海鳥が集まり、陸では猫たちがおこぼれに預かろうと待ち構えている。だが、漁師や仲買人たちは意に介さない様子。談笑しながらも、カゴの魚を見極める目は真剣そのもので早朝の競りは進んでいく。この光景はこれまでもこれからも変わらないのだろう。しかし、「銀平」の安田さんは変化もあると言う。「昔は珍しい魚がもっと獲れていました。海の環境が変わったんでしょうね」。小さな漁港で獲れる魚たちは、季節とともに海の今を教えてくれる。

1. リアルで初めて目にした、お魚をくわえた猫。
2. 逢井漁港では立派な太刀魚が1年中獲れる。
3. 競りを見届けにきたかのように、終わるまで空を舞い続けていた海鳥たち。
4. 器にも強いこだわりを持つ「銀平」では、辻村史朗氏など著名な陶芸家の器を使用。
5. この日の煮魚はレンコダイ(キダイ)。
6. 朝獲れの魚で種類が決まるお造りは、大きな氷に芸術的に盛り付けられる。
7. 競りに使われる、年季の入った木札。
8. 食べた魚が口に入ったまま釣り上げられる魚も。この小魚は集まってきた猫たちのごちそうに。
9. 高級魚のサワラもこの大きさ! 安田さんが「銀平」で働き始めた20年ほど前には、赤い太刀魚が朝獲れで届いたこともあったそう。「見たことのない、びっくりするような魚が届き、調べながら調理することもありました」。