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season stories

エンタメプレゼント 三浦しをん

贈り物を選ぶセンスのある人間になりたい。

きれいで、なおかつ実用的な品(たとえば、鮮やかな色の革製のペン立てとか)や、かわいくておいしいお菓子をプレゼントしてもらったとき、「わあ、私の好みや生活をいろいろ考えて選んでくれたんだなあ」とうれしいし、相手の優しい心が伝わってきて感激する。

しかし私はといえば、迷いに迷ったすえに、正体不明な動物(?)のイラストがどかーんとプリントされたTシャツを贈ってしまったりするのだ。寝巻として活用しようにも、「宅配便屋さんが来たら、これ着て対応するのはちょっとな」とためらわれるような代物だぞ。なんでそんなものを選ぶのだ自分。いや、おもしろくていいかなーと思ったのだが、落ち着いて考えればプレゼントとして明確に失敗であった。

何度も反省し、毎回熟考を重ねてはいるのだけれど、贈り物センスは磨かれないままだ。たぶん、「おもしろさ」を重視するのがいけない。その源流はどこにあるのかというと、子どものころ、拙宅に来ていたサンタクロースだ。サンタさんは張りきってくれていたのだと思う。クリスマスの朝、目を覚ますと枕もとに手袋などが置いてあった(その手袋は、もうサイズが合わなくなって久しいが、お気に入りだったのでなんとなく捨てがたく、いまも取ってある)。それだけでなく、サンタ業の忙しさなどについて綴られた手紙も添えられていた。サンタさんには筆跡を知られたくない事情があるようで、手紙はなぜか毎年、雑誌や新聞から切り抜いた活字を貼りつけたものだったり、ワープロ打ちだったり、左手で書いたみたいにへろへろの文字だったりした。

ほとんど脅迫状ではないか、といまとなっては思うのだが、当時の私は無邪気に喜んでいた。その結果、「プレゼントにはエンタメ性が必要だ」という刷り込みがされ、「おもしろさ」を重視した妙ちくりんな品物を選んでしまうようになったのだと思うのである(「ひとのせいにしないでほしい」とサンタさんが言ってる気がするが)。

今後はちゃんと相手のことを考えた贈り物を選びたいものだが、脅迫状じみたサンタさんの手紙を読むときのような、わくわくする気持ちもそっと混入させられればベストだな、とも思っている。

三浦しをん

2000年、小説『格闘する者に○(まる)』でデビュー。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。小説に『風が強く吹いている』など、エッセイに『マナーはいらない 小説の書き方講座』など著書多数。