HUMAN
STORIES
いつも
ポケットに
小さなアートを
H TOKYO
KITTE 3Fただ四角く縫うだけ。
でも、それがとても難しい
「ハンカチ、持った?」
小学生の頃、出がけに必ず確認された。日本人にとって、ハンカチはとても馴染み深いものだ。実際、日本のハンカチ市場は世界有数だそう。そのハンカチの専門店が「H TOKYO」である。しかも、メンズ向けというのも珍しい。
「前職で量販店のバイヤーとしてメンズ服飾小物を扱っていたのですが、なぜかハンカチだけが、デザインや質よりブランドの名前で売れるんです。しかも、メンズはよりないがしろにされていることに疑問を感じていて(笑)。だから独立したとき、男性向けのハンカチ専門店にしようと決めました」
そう話す代表取締役の間中伸也さんは、スマートなルックスとは裏腹な情熱の持ち主だった。
「日本製にしたかったものの、前職でお付き合いのあった工場はうちのような小ロットでは頼めず、作れる工場を探し回りました」
結果、ハンカチやスカーフが地場産業で、専門工場も多い横浜にたどり着いたそう。
「ハンカチって四角く縫うだけだから、どこでも作れそうですよね? 実際、シャツメーカーが余った生地で作ることもありますが、やはり専門工場の仕立てにはかなわない。例えば、洗うと形が歪んでしまうハンカチ。きちんと糸目に沿って裁断すれば、そうはならないんです。『H TOKYO』では、手間がかかってもきれいな四角にこだわっています。生地は一般的なハンカチに比べ糸の量が多く、密に織っているので質感があり、吸水性も高い。型くずれしにくく、アイロンがけも楽ですよ」
もちろん、デザインも手を抜かない。いつ訪れても新鮮さを感じられるよう、街の八百屋のように季節ごとに新作を発表。マンガをモチーフにした「マンガチ」のような挑戦にもフットワークが軽い。
「4~5個のコマを繰り返すのではなく、高橋留美子先生の原作を全巻読み、セレクトした名シーンを全部並べました。開発に半年から1年はかかりましたね(笑)」
間中さんをそこまで熱くさせる想いとは何なのだろう?
「ハンカチは普段ポケットに入っているもの。人に見せるものではないけれど、目に見えないところこそ大事にしたいと思うんです」
H TOKYOエイチ トーキョー
3F SHOP PAGESIDE STORY
「触り心地がいい」「気持ちいい」…
好きなハンカチは、ときにお守り代わりになる
「H TOKYO」のハンカチの多くは、ミシン縫いの中でも難しい「千鳥縫製」が採用されている。さらに難易度の高い手縫いの「ハンドロール(手巻き)」や「フレンチヘム」を用いているものも。普段、ハンカチの縫い目をまじまじと見ることはあまりない。だが、目立たない縫製のそのわずかな違いが、ハンカチの印象に影響しているのだ。生地の織り方ひとつとっても同じ。同じ綿100%でも、織り方によって手触りが驚くほど違う。「だから店舗を続けている」と代表取締役の間中伸也さんは言う。「ネットでも商売できるんですが、ハンカチに触れてほしいという思いがあって。目に映るものだけでなく、手の感覚や肌に触れて感じることを大切にしてほしいんです」。